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最高裁判所第二小法廷 昭和25年(オ)241号 判決 1952年6月27日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士近藤新の上告理由第一点について。

しかし所論は原審が適法にした証拠の取捨判断及び事実の認定を非難するに過ぎないものであるから上告適法の理由にならない。

同第二点について。

原判決の確定した事実によれば上告人は昭和二一年七月一二日その妹の夫である瀬口三治及び藤野富夫等とともに被上告人方に赴き被上告人に対して離婚を申入れて衣類等の引渡を求め且つ向一五年間の生活費の要求その他の条件を持ち出し被上告人が離婚の責任は上告人にあるとて右要求を拒絶したのでそれではかねて被上告人において所持していた刀剣類のことを占領軍に告発するとおどして被上告人の応諾を強い、はては同日電話を以て右の旨を占領軍に通報し同夜以来被上告人方に泊り込んで当局の家宅捜索を待ち翌日被上告人は所轄警察署に呼出されて取調を受け同夜は同署に留め置かれ、その翌日の家宅捜索に際しては上告人自から係員を案内して被上告人不在中の家宅内を隈なく物色させその結果上告人の予期していた日本刀二振は発見できなかつたものの(これは上告人の家出後被上告人において供出ずみのものであつて上告人としては右供出のことは知らなかつたのである)長刀の穂先一振と米一俵の摘発に所期の目的を達したのであつた。このため被上告人は銃砲等所持禁止令及び食糧管理法違反として略式命令により罰金一万円に処せられ正式裁判の結果罰金四千円となつたというのであつて右のように上告人が被上告人の家庭内の秘事を摘発して被上告人を罪におとしたことはそれがもともと被上告人に罪責があるとはいえ、また夫婦の仲が破局の最後の段階に達している際であるとはいえいやしくもまだ夫婦である限りまことに夫婦道に違反し夫たる被上告人の名誉もしくは面目を著しく毀損するものであつて改正前の民法八一三条五号の重大なる侮辱にあたるものと解すべきである。然らば右と同一趣旨に出でた原判決は正当であつて所論のような違法なく論旨は理由がない。

よつて民訴四〇一条、九五条、八九条により主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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